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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)6359号 判決 1971年8月21日

当事者参加人 大証不動株式会社

右代表者代表取締役 尾高敏明

右訴訟代理人弁護士 仙波安太郎

同 鷹取重信

右仙波訴訟復代理人弁護士 坂本義典

右鷹取訴訟復代理人弁護士 出島侑章

原告 加藤登世子

右訴訟代理人弁護士 小林直人

同 曽我乙彦

同 万代彰郎

被告 前田弘

右訴訟代理人弁護士 岡利夫

主文

参加人の当事者参加申出を却下する。

参加人と原告、被告との間に生じた訴訟費用は、参加人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

本件当事者参加申出の適否について判断する。

一、本件当事者参加申出の要旨は次のとおりである。

本訴において、原告は被告に対し、「(1)被告は本件土地に立入り、工事人を立入らせ、道具資材を搬入し、測量し、杭を打ち、建物の基礎工事および石垣工事をする等、原告の右土地に対する占有の侵害となる一切の行為をしてはならない。(2) 被告は原告に対し金五〇万円およびこれに対する昭和四四年八月二九日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求めるが、右(1)は本件土地の占有権に基づく妨害排除請求であり、(2)は右土地に対する被告の占有妨害を不法行為であるとして右不法行為による損害賠償として弁護士費用等を請求するものである。そして右本訴の係属中に、参加人は、原、被告間の本訴は馴合訴訟(詐害訴訟)であり、本訴の結果によって、参加人の権利が害されるものであるとして、原告および被告を相手として、「原告および被告は参加人に対し、本件土地につき被告が所有権を有することを確認する。原告の請求を棄却する。」との判決を求めるため、民訴法七一条前段に基づく参加の申出をなすというものである。

二、民訴法七一条前段の規定の解釈については学説の分れるところであるが、当裁判所は次のように考える。すなわち、民訴法七一条前段の規定は他人間に係属する訴訟の結果により自己の権利が侵害され、もしくは侵害されるおそれのある第三者をして、その権利を保全させるため、当該訴訟に当事者として参加させ、被参加当事者および参加人間の紛争を迅速且つ画一に解決し、もって訴訟経済および判決の牴触防止を図ったものに外ならず、右の第三者とは必ずしも既に係属する他人間の訴訟についての判決および判決と同一の効力を有する訴訟行為の効力を直接受け、これに服従しなければならない者に限られるべきではなく、その訴訟の結果、間接に自己の権利を害されるおそれのある者をも含むものと解するのが相当である(大審院昭和一二年四月一六日判決。民集一六巻八号四六三頁参照)。しかしながら、本条の参加は右のように他人間の訴訟に当事者として参加し、三者間において紛争を迅速画一に解決することを求めるものであるから、右にいう「自己の権利が害されるおそれがある」といいうるためには、他人間の当該訴訟に当事者として参加し、統一的に紛争を解決するに適する場合でなければならないと解するのが相当である。

三、(一) ところで参加人は、原告が被告に対して提起している前記本訴においていわゆる馴合訴訟を意図しているから、参加人は当然本訴に参加することができると主張する。

しかし、本訴がいわゆる馴合訴訟であるか否かは暫く措き、馴合訴訟であっても、参加人が参加しうるためには、前記説示から明らかなように、馴合訴訟行為の結果参加人の権利が害される場合でなければならないから、単に馴合訴訟を意図しているというだけでは参加することができない。

(二) 次に参加人は、右本訴の馴合訴訟の結果、(あるいは仮に本訴が馴合訴訟というに至らなくても、)右本訴においては、原告の占有権の前提として、所有権の存否すなわち本件係争地が原告主張の甲番地の土地に属するか参加人主張の乙番地の土地に属するかの判断がなされるのが必然であり、したがって本訴の結果により別訴の帰すうに重大な影響があり、それゆえ参加人は本訴の結果により権利を害される者に該ると主張する。

しかし、本訴は前記のとおり本件土地の占有権に基づく妨害排除請求ならびに本件土地の占有侵害を不法行為であるとして損害賠償を請求するものであるところ、占有の訴は本権の訴とはその基礎を異にし、占有の訴の当否はもっぱら占有関係によってのみ判断さるべきものである(民法二〇二条)ことなどを考慮すると、右のような権利を訴訟物とする本訴において、前提として本件係争地に対する所有権の帰属に関する判断をしなければならないものとは到底いいえないし、仮に本訴の理由中の判断において本件係争地の所有権の帰属に関連する点にふれられることがあったとしても、右判断は別訴において何ら拘束力をもつものではないのはもちろん、裁判官の心証に対する影響という面をも考慮しても、本訴と別訴とでは対象となる権利が一方は本件係争地に対する本権たる所有権であるのに対し、他方は占有権であって異なるのであるから、それほど強い影響があるものとは考えられない。それゆえ、原、被告間の本訴の結果如何により、参加人の別訴における訴訟追行が特に困難になるとか、別訴において参加人が特に不利益を受けるということもないので、本件の場合、原告、被告、参加人間の紛争を統一的に解決する必要は認められず、右参加人主張の理由によっては参加人が本訴の結果権利を害されるおそれがあるものということはできない。

四、以上説示したとおり、参加人主張の理由によっては参加人が原、被告間の前記本訴の結果によりその権利を害されるものとはいいがたいし、他に参加人が本訴の結果、権利を害されるものと認めるに足りる理由をみいだし難い。

よって参加人の本件参加申出は、民訴法七一条前段の参加申出の要件を欠く不適法なものとして却下することとし、その訴訟費用の負担につき同法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡崎彰夫)

<以下省略>

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